日本福祉のまちづくり学会関西支部

セミナー

第24回 日本福祉のまちづくり関西セミナー報告  
「市民力による福祉の交通まちづくりの推進に向けて
−市民・行政・アドバイザー それぞれの連携について考える−」

―2005年12月9日(金) ドーンセンター(大阪府立女性総合センター)大会議室(大阪市中央区)―

 ドーンセンターにて「市民力による福祉の交通まちづくりの推進に向けて」と題したセミナーを開催した.
 今回のセミナーでは、交通バリアフリー基本構想策定後の展開のひとつとして,大阪市北区菅北地域で行われた市民ワークショップ活動を取り上げた.この事例に直接関わった方々より,事例の経緯,実務の上での工夫や苦労・具体の実践内容などを紹介していただいた.さらに,この取り組みに参加した市民の方々4名をパネリストに加え,市民側からの評価や感想もお話しいただき,市民主体の福祉の交通まちづくりについて議論を深めた.
 参加者は60名、交通バリアフリー基本構想に関わる行政担当者、コンサルタント、大学で建築を学ぶ学生など多数の参加を得た.

■事例報告  1)当初の構想と実現できたこと  原田処平氏(大阪市北区役所)
原田氏の講演の様子
〈講演の様子〉
 平成16年度に取り組んだ北区交通バリアフリー関連の市民ワークショップの報告をしていただいた.

 北区には日本一長い天神橋筋商店街がある.ハード面でのバリアフリーは着実に進んでいたが,看板や商品のはみ出し,放置駐輪といった問題が残っていた.
 そこで,心のバリアフリー,市民参加の継続的な取組みに着目し,行政主導ではなく,市民主導のまちづくりに していくための取組みを行った.
 取組み体制としては,「バリアフリーアドバイザーズ」という高齢者や障害者などがリーダーとして指導してくれる組織をおき,菅北小学校と連携して行った.初めての取組みであり,毎回試行錯誤の連続であった.今回の取組みをいかに継続させるのかが課題である.
 また,この取組みは,交通バリアフリー推進支援連絡協議会主催の「第4回交通バリアフリー推進の集い」にて奨励賞をいただいた.
■事例報告  2)実務面でのしくみ創り  石塚裕子氏(八千代エンジニヤリング)
石塚氏の講演の様子
〈講演の様子〉
 コンサルタントとしてこの取組みに関わった石塚氏から,実務的な面からの報告をしていただいた.

 「バリアフリーについて学ぶ」,「バリアフリーを理解する」,「協力する場をつくる」という3つの目的に対して,それぞれに工夫を行った.
 小学生とのまち歩きということで,安全管理の徹底,実体験の重視という点を特に配慮した.子どもは大人以上に体験から学ぶことが多いため,体験をできるだけ多くできるように工夫した.
 ワークショップの中で出てきた発話を分析し,今回の取り組みにより「市民が主体となった提案」や「多世代の意見交換による相乗効果」といった効果を得ることが確認できた.
 今後,市民主導の福祉の交通まちづくりに展開していくためには,「積み重ねの必要」,「多世代での意見交換の必要」,「市民組織同士の連携の場づくり」,「コミュニティ力の活用」の4つが必要ではないかと述べられた.
■事例報告  3)小学校の総合学習での実践  飯田克弘氏(大阪大学大学院)
飯田氏の講演の様子
〈講演の様子〉
 飯田氏は小学校において「まちのバリアフリー」をテーマとした総合学習に関わっている.今回は,平成16年度の北区菅北小学校の総合学習の取組みを紹介していただいた.

 大人も子どもも世代を超えて,社会の問題を一緒に考えていきたい.コミュニティというのは,合意や連帯や協同の活動の中から形成される協同社会だと思っている.
 総合学習のねらいを段階的に分けて,まちのバリアフリーとどう関係するのかを関連付けて分析した.この授業を通して,「他者の動きを理解する」段階に到達した児童は49名中45名,「他者の気持ちや思いを考える」段階に到達した児童は49名中26名と,多くの生徒がこの授業の到達目標に達成することができた.
 また、小学校が外部と連携することで,「人員不足や施設に関する問題の解消」,「外部講師による授業実践の効果」,「学校地域の連携による活動実現の効果」を得ることができた.現在,今までの取組みをまとめて,バリアフリーを題材とした総合学習の手引きとして,パンフレットを作成している.
   
■パネルディスカッション 「事例を通して考える これからの福祉の交通まちづくり」
 活動に参加した市民・各団体の方々をむかえ,パネルディスカッションを行った.

パネルディスカッション 原田さんの発言

パネルディスカッション 大村さんの発言

パネルディスカッション 北口さんの発言
〈パネルディスカッションの様子〉

【原田氏 元北区役所企画調整課長】
 平成14年4月に企画調整課長になり,バリアフリー基本構想を策定した.基本構想の策定後は,ハード面の整備は着々と進んでいた.飯田先生から心のバリアフリーについて小学校との協同の取みについて提案があった.一緒にバリアフリーの課題を出し合って,3月下旬に冊子とビデオができた.
 残念なことは,子どもたちのやる気と町の方々の熱意を継続していくことができなかったことだ.市民参加の取組みは継続して行っていると思っていたが,3月以降積極的に動いていないと聞き,残念に思っている.

【千原氏 社会福祉協議会】
 バリアフリーについてどの方も問題意識を持っていると思うが,何から手をつけてよいかわからないという人が多いと思う.
 商店街で「自転車から降りて歩きましょう」という放送をかけて4ヶ月程立ったら自転車を押して通行する人が増えた.しかし,いつの間にか放送が流されなくなったら元に戻ってしまった.
 子どもは核をついた発言をする.子どもが参加することで大人が恥ずかしく思い,態度を改めるという効果もあった.今回の取組みでPTAの方にたくさん出ていただき,本当に助かった.

【大村さん 菅北小学校PTA会長】
 菅北小学校は,JR天満駅の近くにある全校で280名の小さな学校である.学校の総合学習の中で,福祉に力をいれた取組みをしている.
 子ども達は,みんなで自転車を整理したり,悪ふざけをやめたりした.当初,子どもたちは福祉のことについてピンときていなかったが,体験をしっかりと胸に刻むことができたと思う.

【北口さん 車いすユーザ】
 菅北小学校の子どもたちと歩いて,改めて商店街の自転車の多さを感じた.怪我をして車いすに乗ったことのある子どもが「車いすでは通りにくい」と発言したのが一番印象的だった.実体験を通して考えることができる子ども達がいて,ほっとしている.
 また,春先から私をみかけたら声をかけてくれたり,自転車を並べなおしたりしてくれている.
 会場から以下のような質問・意見があった.
  • 子どもの誘拐が相次ぎ,学校の安全が脅かされている.防犯対策の観点も入れてはどうか.
  • ワークショップをしても,「行政に提案して終わり」というケースが多い.提案を聞きっぱなしにするのではなく,次に繋げるような取組みができないか.
まとめ
 最後に,コーディネータの飯田氏から以下のようなまとめがあった.

 今回は,行政や学識経験者からの報告だけでなく,当事者から感想,取組みに参加した意義を述べてもらうことができて,個人的には感激している.
 実践・経験を自分の中で整理してみんなと共有していくことが,継続した取組みにつながるのではないか.今回のセミナーで,我々がしたことを再確認できて,参加者の方に伝えることができたのであれば,意義深いものであったと思う.


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